学校で実践する子ども同士のトラブル発生時の加害者ケア
これまでスクールカウンセラーとして勤務する中で、どこの学校でも子ども同士のトラブルは大小問わずに発生します。
- お友達を怪我させてしまった。
- 発した一言でお友達を傷つけてしまった。
- 1人をターゲットにしたいじめを起こした。
様々な問題が起きますが、こうしたトラブルを対応するときに大切なのは、加害者とされた子どもと被害者となった子どもと両方に別々のケアを行うことだと思います。
加害者ケアは対話から始まる
スクールカウンセラーとしては、加害者へのケアに携わることが多く、他のカウンセリングと同様に子どもたちと信頼関係を構築して、対話を重ねることから始めていきます。
加害者とされた子たちは叱られたことで反省文を提出するケースもあり、「反省したふり」が非常に上手になっていくため、加害者にならざるを得なかった加害者の気持ちにしっかり寄り添うことでトラブルの全貌が見えてきます。
CASE①暴力少年
中学生のAくんは、小学校高学年から家庭や学校内で子どもから大人にまで、気に入らないことがあると暴力を振っていました。
Aくんが1度暴力を振うと自力で静止することができず、落ち着くまで待つしかないため、周りがAくんにビクビクしながら関わる中でAくんの暴力はエスカレートして、お友達や先生へ怪我を負わせてしまうことが増えていきました。
CASE②いじめ少女
中学生Bちゃんは、小学校低学年の頃から、友達に対して自分の思い通りにならないと意地悪なことをしてしまうようになりました。
- 予定があって「遊べない」と言っている子に対して、「今日遊ばないと明日からいじめる」と発言する。
- 「○○をちょうだい」とねだり、拒否をすると「くれないと明日からいじめる」と発言する。
上記のように相手をコントロールする形のいじめを行い、何度も先生から怒られ、その都度反省をしても繰り返すことが続いていました。
暴力やいじめでどんな得をしていた?
どちらのケースも1度や2度の注意では改善されず、何度もくりかえしていたため、信頼関係が構築できて、対話の内容が深まった頃に聴いてみました。
「Aくん、暴力をしていたときにAくんにとって得していることがあるとしたならどんなこと?」
「Bちゃん、人に対して○○してくれないといじめるって話しているとき、Bちゃんにとって、どんな良いことがあったのか教えて・・・?」
この質問に対してふたりとも「自分が強くなったみたいでうれしかった」と回答しました。
強さをどう使うのか
暴力や相手をコントロールすることで、自分の強さを主張したかった彼らの本当に求めるものはなんだったのか。
そこを誰にも言えないまま、叱られてどんな気持ちでこれまで過ごしてきたのか。
反省文を提出するときはどんな気持ちだったのか。
そんな気持ちをヒアリングして受け止めた後で
「あなたは本当に強くて立派な人。
自分がしたことを認められて充分強さを持っているし、みんなもあなたが強いことを認めているけど、これから先、あなたはその強さをどんな風に使っていきたいかな?」
そう聴くと、「困っている子を助けたい・・・」「勇気をだせない子の力になりたい・・・」「先生の力にもなりたい・・・」など、ポツポツと話し始めます。
ここまで来ると、前のような状態を脱して少しずつ落ち着いた生活ができるようになってきます。
人権を守るための加害者ケア
加害者には、そうせざるを得なかった苦しい状況があり、見えていた問題行動はすべて「助けて」のメッセージだと考えています。
そこを無視して、問題行動にだけ目を向けてしまうと加害者の人権が守られないことにもなるため、「たすけて・・・」のメッセージをヒアリングして、同じことを繰り返さないため、どうしたらよいのか?までを一緒に考えていく。
その繰り返しの中で、時に攻撃的な対応をされることももちろんありますが、それも彼らのSOSだと受け止め、丁寧なヒアリングと寄り添いが今は響かなくても数年後には届くはず!と信じて、加害者ケアを行っています。